大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 昭和48年(わ)417号 判決

本籍

横浜市神奈川区大口仲町三九番地の二

住居

同市同区西大口二八番地

弁理士

佐藤正年

昭和五年三月一六日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官岡準三出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金四、〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一口に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都千代田区永田町二丁目一〇番二号TBRビルにおいて弁理士業務を営むものであるが、自己の所得税を免れようと企て、外国代理人に対する支払手数料等の経費を過大に計上し、また、従業員をパートナーと称し、利益を分配したように仮装する等の不正手段により、所得の一部を秘匿したうえ

第一  昭和四四年分の実際総所得金額が一一五、八六二、一八一円(別紙(一)修正貸借対照表の事業所得の差引修正金額欄参照)であったのにかかわらず、昭和四五年三月一〇日横浜市南区南太田町二丁目一二四番一号所在の所轄横浜南税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額が一九、九八九、四八六円で、これに対する所得税額が二、三三八、一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額五九、八一一、三〇〇円と右申告税額との差額五七、四七三、二〇〇円(税額の算定は別紙(三)税額計算書参照)を免れ

第二  昭和四五年分の実際総所得金額が二〇八、〇二三、三八四円(別紙(二)修正貸借対照表の事業所得の差引修正金額欄参照)であったのにかかわらず、昭和四六年三月一二日前記横浜南税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額が二九、五一七、四七二円で、これに対する所得税額が四、九四一、二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一一四、八七〇、七〇〇円と右申告税額との差額一〇九、九二九、五〇〇円(税額の算定は別紙(三)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全般の事実につき

一  被告人の当公判廷における供述(第二八回公判)

一  被告人に対する収税官吏作成の質問てん末書五通(乙〈1〉昭和四七年一月二六日付、乙〈2〉〈3〉昭和四七年一月二七日付二通、乙〈4〉昭和四七年二月九日付、乙〈20〉昭和四七年一〇月一九日付)

一  被告人の検察官に対する供述調書三通(乙〈23〉〈24〉昭和四七年二月二二日付二通、乙〈26〉昭和四七年二月二四日付)

一  証人前田昌男の当公判廷における供述(第二十七回、第二八回公判)

一  甲一〈1〉〈2〉収税官吏前田昌男作成の脱税額計算書二通(脱税額計算説明資料四通を含む)及び甲一〈3〉〈4〉の同じく所得税額計算書二通

一  押収してある四四年分、四五年分の確定申告書二袋(昭和四八年押第六一七号の符六〇号、六一号)、入金、出金、振替伝票一六綴(符五三号、五四号)、四四年分、四五年分の事業所得収支明細書二袋(符六三号、六四号)

別紙各修正貸借対照表の勘定科目ごとの増差額につき

〔現金〕 〔当座預金〕 〔普通預金〕 〔定期預金〕 〔別段預金〕

一  甲(一)〈8〉収税官吏前田昌男作成の昭和四七年一〇月二〇日付銀行調査書

〔現金〕

一  甲(一)〈6〉吉田栄一作成の昭和四七年九月二六日付上申書

一  乙〈16〉被告人に対する収税官吏作成の昭和四七年九月二六日付質問てん末書

一  甲(一)〈88〉小杉正義の検察官に対する供述調書

一  第一四回公判調書中の証人竹元昭富の供述部分

一  押収してある普通預金通帳六冊(符二四号)、昭和四三、四四年入出金明細表一冊(符三九号)、裏預金メモ綴一袋(符五七号)

〔当座預金〕

一  甲(一)〈9〉吉田栄一作成の昭和四七年一〇月七日付上申書

一  甲(一)〈10〉石井正勝作成の昭和四七年一〇月一七日付銀行証明書

一  甲(一)〈15〉石川正勝作成の昭和四七年一〇月一七日付銀行証明書

一  甲(一)〈11〉川崎覚作成の昭和四七年一〇月二〇日付銀行証明書

一  甲(一)〈13〉永田豊作成の昭和四七年一〇月一一日付銀行証明書

〔普通預金〕

一  甲(一)〈9〉吉田栄一作成の昭和四七年一〇月七日付上申書

一  甲(一)〈14〉宇於崎章作成の昭和四七年一〇月一八日付銀行証明書

一  甲(一)〈16〉〈17〉常田信昭作成の昭和四七年一〇月一三日付銀行証明書二通

一  甲(一)〈19〉〈20〉宮崎誠也作成の昭和四七年一〇月一九日付銀行証明書二通

一  甲(一)〈15〉石井正勝作成の昭和四七年一〇月一七日付銀行証明書

一  甲(一)〈23〉〈24〉塩原祐三郎作成の昭和四七年一〇月二〇日付銀行証明書二通

一  甲(一)〈11〉〈12〉川崎覚作成の昭和四七年一〇月二〇日付銀行証明書二通

一  甲(一)〈25〉〈26〉佐久間作成の昭和四七年一〇月一二日付銀行証明書二通

一  甲(一)〈21〉〈22〉古川敏夫作成の昭和四七年一〇月二〇日付銀行証明書二通

一  甲(一)〈18〉佐々政邦作成の昭和四七年一〇月一一日付銀行証明書

〔定期預金〕

一  甲(一)〈9〉吉田栄一作成の昭和四七年一〇月七日付上申書

一  甲(一)〈10〉石井正勝作成の昭和四七年一〇月一七日付銀行証明書

一  甲(一)〈14〉宇於崎章作成の昭和四七年一〇月一八日付銀行証明書

一  甲(一)〈21〉古川敏夫作成の昭和四七年一〇月二〇付銀行証明書

一  甲(一)〈13〉永田豊作成の昭和四七年一〇月一一日付銀行証明書

一  甲(一)〈88〉小杉正義の検察官に対する供述調書

一  押収してある裏預金メモ綴一袋(符五七号)

〔積立定期預金〕

一  甲(一)〈9〉吉田栄一作成の昭和四七年一〇月七日付上申書

一  甲(一)〈11〉川崎覚作成の昭和四七年一〇月二〇日付銀行証明書

〔別段預金〕

一  甲(一)〈9〉吉田栄一作成の昭和四七年一〇月七日付上申書

一  甲(一)〈14〉宇於崎章作成の昭和四七年一〇月一八日付銀行証明書

〔積立郵便貯金〕

一  甲(一)〈27〉吉田栄一作成の昭和四七年一〇月七日付上申書

一  甲(一)〈28〉屋代弘賢作成の昭和四七年九月六日付証明書

一  乙〈29〉被告人作成の昭和四七年三月七日付上申書(添付の積立郵便貯金通帳写二通を含む)

〔未収金〕

一  甲(一)〈30〉被告人作成の昭和四七年六月九日付上申書(作成者として吉田栄一の署名、押印のあるもの。検察官提出の証拠の標目欄の記載に従う。)

一  甲(一)〈32〉被告人作成の昭和四七年一〇月七日上申書

一  乙〈30〉被告人作成の昭和四七年一二月一八日付上申書

一  甲(一)〈29〉被告発作成の昭和四七年三月二一日付上申書

一  押収してある無表題ノート一綴(符三六号)、昭和四五年度外国支払手数料帳一綴(符三七号)、未収入分請求書綴二綴(符二号)、請求書一袋(符一三号)、請求書綴二綴(符五五号、五六号)

〔株式〕 〔受取配当〕

一  甲(一)〈33〉吉田栄一作成の昭和四七年六月九日付上申書

一  甲(一)〈34〉合田圭作成の昭和四七年二月二一日付証明書

一  甲(一)〈35〉中央信託銀行株式会社作成の昭和四七年二月二四日付証明書

一  甲(一)〈36〉住友信託銀行株式会社作成の昭和四七年三月六日付証明書

一  甲(一)〈37〉東京証券代行株式会社作成の昭和四七年三月八日付証明書

一  甲(一)〈38〉三井信託銀行株式会社作成の昭和四七年三月二三日付証明書

一  甲(一)〈39〉同じく昭和四七年三月七日付証明書

一  甲(一)〈40〉収税官吏前田昌男作成の昭和四七年四月一四日付「株式時価等」調査書

〔電話債券〕

一  甲(一)〈55〉吉田栄一作成の昭和四七年七月一二日付上申書

一  甲(一)〈72〉吉田栄一作成の昭和四七年七月一四日付上申書

一  甲(一)〈57〉収税官吏西田亨作成の昭和四七年七月一〇日付電信電話債券市場価額調査表

〔社債四五年分〕

一  甲(一)〈33〉吉田栄一作成の昭和四七年六月九日付上申書

一  甲(一)〈71〉出野勝作成の昭和四七年二月二四日付証明書

〔前渡金〕

一  甲(一)〈8〉収税官吏前田昌男作成の昭和四七年一〇月二〇日付銀行調査書

一  甲(一)〈41〉吉田栄一作成の昭和四七年一〇月二〇日付銀行調査書

一  甲(一)〈41〉吉田栄一作成の昭和四七年五月二九日付上申書

一  甲(一)〈42〉秀和株式会社作成の昭和四七年二月二五日付上申書

一  押収してある秀和恵比寿レジデンス土地建物売買契約書等一袋(符二〇号)

〔前払費用〕

一  甲(一)〈42〉秀和株式会社作成の昭和四七年二月二五日付上申書

〔前払外国手数料〕 〔外国手数料未払金〕

一  甲(一)〈43〉被告人作成の昭和四七年一二月一八日付上申書(前記〔未収金〕欄の甲(一)〈30〉のかっこ内の記載と同じ。)

一  押収してある特許基本台帳一冊(符七五号)、外国特許一覧三冊(符一五号ないし一七号)、未収入分請求書綴二綴(符二号)、請求書一袋(符一三号)、請求書綴二綴(符五五号、五六号)、送金通知控三綴(符六号)、送金書類綴一綴(符七号)、送金分綴三綴(符一四号)、四五年度外国支払手数料帳一綴(符三七号)、外国支払手数料台帳(四四年分)一綴(符三八号)、請求関係一覧帳一冊(符七八号)、支払等許可申請書綴一九綴(符七九号の一ないし一九)

〔貸付金〕

一  甲(一)〈8〉収税官吏前田昌男作成の昭和四七年一〇月二〇日付銀行調査書

一  乙〈3〉被告人に対する収税官吏の昭和四七年一月二七日付質問てん末書

一  乙〈5〉被告人に対する収税官吏の昭和四七年三月二一日付質問てん末書

一  押収してある覚書等一袋中の金銭借用証書一通(符二五号)(仮還付ずみ)

〔減価償却資産〕

一  甲(一)〈44〉吉田栄一作成の昭和四七年七月五日付上申書

一  甲(一)〈45〉吉田栄一作成の昭和四七年七月六日付上申書

一  甲(一)〈46〉吉田栄一作成の昭和四七年八月二三日付上申書

一  甲(一)〈42〉秀和株式会社作成の昭和四七年二月二五日付上申書

一  甲(一)〈47〉笹井靖男作成の昭和四七年五月八日付上申書

一  甲(一)〈49〉梶浦彪作成の昭和四七年五月九日付上申書

一  甲(一)〈50〉真田弥筰作成の昭和四七年五月二三日付上申書

一  甲(一)〈51〉今村陽二作成の昭和四七年五月二三日付上申書

一  甲(一)〈52〉金野浩作成の昭和四七年五月一日付証明書

一  甲(一)〈53〉宮内精治作成の昭和四七年五月九日付証明書

一  甲(一)〈54〉横浜南税務署長大瀧浩作成の昭和四七年七月六日付証明書(減価償却費の計算について)

〔敷金〕

一  甲(一)〈41〉吉田栄一作成の昭和四七年五月二九日付上申書中の「敷金」に関する部分

一  甲(一)〈93〉吉村ヨシミに対する収税官吏の昭和四七年四月一〇日付質問てん末書

〔差入保証金〕

一  甲(一)〈41〉吉田栄一作成の昭和四七年五月二九日付上申書中の「差入保証金」に関する部分

一  甲(一)〈42〉秀和株式会社作成の昭和四七年二月二五日付上申書中の「保証金」に関する部分

〔電話加入権〕

一  甲(一)〈56〉吉田栄一作成の昭和四七年七月一二日付上申書

一  甲(一)〈57〉収税官吏西田亨作成の昭和四七年七月一〇日付電信電話債券市場価額調査表

一  乙〈13〉被告人に対する収税官吏作成の昭和四七年九月四日付質問てん末書

〔建物四五年分〕

一  甲(一)〈75〉吉田栄一作成の昭和四七年五月二九日付上申書中の「建物」に関する部分

一  甲(一)〈76〉下條健作成の昭和四七年二月二一日付上申書

一  甲(一)〈77〉石井勉作成の昭和四七年二月二五日付上申書

〔土地四五年分〕

一  甲(一)〈42〉秀和株式会社作成の昭和四七年二月二五日付上申書中「土地建物」に関する部分

一  甲(一)〈75〉吉田栄一作成の昭和四七年五月二九日付上申書中の「土地」に関する部分

一  甲(一)〈78〉森田伝蔵作成の昭和四七年二月二四日付上申書

一  甲(一)〈79〉長島弘臣作成の昭和四七年四月一〇日付上申書

一  押収してある不動産売買契約書等一袋(符三四号)(仮還付ずみ)

〔入会金四五年分〕

一  甲(一)〈41〉吉田栄一作成の昭和四七年五月二九日付上申書中の「入会金」に関する部分

一  甲(一)〈8〉収税官吏前田昌男作成の昭和四七年一〇月二〇日付銀行調査書

〔未払費用〕

一  甲(一)〈93〉吉村ヨシミに対する収税官吏の昭和四七年四月一〇日付質問てん末書

一  押収してある入金・出金振替伝票四綴中昭和四四年一月ないし三月分(符五三号)

〔預り金〕

一  甲(一)〈74〉吉田栄一作成の昭和四七年八月二三日付上申書中の「預り金」に関する部分

〔借入金〕

一  甲(一)〈58〉宇於崎章作成の昭和四七年一〇月一八日付証明書

一  乙〈5〉被告人に対する収税官吏作成の昭和四七年三月二一日付質問てん末書

〔事業主勘定〕 〔地方税報償金〕 〔還付加算金〕

一  甲(一)〈60〉吉田栄一作成の昭和四七年八月一三日付上申書

一  甲(一)〈66〉横浜南税務署長大瀧浩作成の昭和四七年三月七日付証明書(所得税の納付状況について)

一  甲(一)〈68〉横浜市港南区長伊藤衛作成の昭和四七年三月一三日付証明書(県民・区民・固定資産・軽自動車税の納付状況について)

一  甲(一)〈61〉吉田栄一作成の昭和四七年八月一三日付上申書

一  甲(一)〈67〉横浜市港南区長伊藤衛作成の昭和四七年三月一三日付証明書(国民年金の保険金の払込状況について)

一  甲〈64〉丸山勝司作成の昭和四七年二月一九日付証明書

一  甲(一)〈66〉藤本泰治作成の昭和四七年二月二二日付証明書

一  甲(一)104(乙〈31〉)吉田栄一及び被告人作成の昭和四七年八月二三日付上申書

一  甲(一)〈63〉佐藤千恵子作成の昭和四七年九月四日付上申書(添付の払込保険料内訳明細表写、簡易保険契約証書写及び保険料預収帳写を含む)

一  甲(一)101水島達男作成の昭和四七年五月一日付証明書

一  乙〈3〉被告人に対する収税官吏作成の昭和四七年一月二七日付質問てん末書

一  乙〈11〉同じく昭和四七年七月一二日付質問てん末書

一  乙〈13〉同じく昭和四七年九月四日付質問てん末書

一  甲(一)〈59〉吉田栄一作成の昭和四七年七月三日付上申書

一  甲(一)〈30〉被告人作成の昭和四七年六月九日付上申書(前記〔未収金〕欄記載のものと同じ。)

一  甲(一)〈31〉被告人作成の昭和四七年九月一八日付上申書

一  乙〈30〉同じく昭和四七年一二月一八日付上申書

一  乙〈9〉被告人に対する収税官吏作成の昭和四七年五月一八日付質問てん末書

一  甲(一)〈69〉収税官吏前田昌男作成の昭和四七年一〇月二一日付計算書

一  乙〈18〉被告人に対する収税官吏作成の昭和四七年一〇月一二日付質問てん末書

一  甲(一)〈7〉宇於崎章作成の昭和四七年一〇月一八日付証明書

一  第五回公判調書中の証人大井幸子(旧性手島)の供述部分

一  証人高月猛に対する当裁判所の尋問調書及び第七回公判調書中の証人高月猛の供述部分

一  押収してある源泉徴収簿兼賃金台帳二綴(符九号、一〇号)、就業規則第一袋(符三一号)、家計簿等一冊(符四七号)、未収入分請求書綴二綴(符二号)、請求書一袋(符一三号)、請求書二綴(符五五号、五六号)

〔元入金〕

昭和四四年分五九、四一二、五七二円については、別紙(一)修正貸借対照表資産の部期首現在高七一、五五〇、九四五円から負債の部の負債の期首現在高一二、一三八、三七三円を控除した純資産額を示すものである。

昭和四五年分一五五、四五一、七九五円については、別紙(一)の右純資産額五九、四一二、五七二円に、受取利息二、六二三、八一五円、受取配当五八、八六一円、地方税報償金六七二円、還付加算金六、〇〇〇円、貸倒引当金九一、六四一円、退職引当金五〇、〇〇〇円小計二、八三〇、九八九円及び事業所得一一五、八六二、一八一円を加えた合計一七八、一〇五、七四二円から事業主勘定二二、六五三、九四七円を控除した金額を示すものである。

〔受取利息〕

一  甲(一)〈9〉吉田栄一作成の昭和四七年一〇月七日付上申書

一  甲(一)〇宇於崎章作成の昭和四七年一〇月一八日付銀行証明書(但し、別紙「預金残高および預金利息(税引後)明細表」中定期預金欄の昭和四五年一月一日から同年一二月三一日までの預金利息の合計金額が「四、八六一、〇一一」とあるのは「四、八六一、〇一六」の誤記と認める)

一  甲(一)〈21〉古川敏夫作成の昭和四七年一〇月二〇日付銀行証明書

一  甲一〈27〉吉田栄一作成の昭和四七年一〇月七日付上申書

(各争点に対する当裁判所の判断)

一  本件逋脱所得金額の算定方法について

弁護人は、本件逋脱所得金額の算定方法が財産増減法によった点につき、およそ所得の算定は総収入金額から必要経費を控除する方法によって確定すべきであって、それが不可能である場合にのみ期首財産を比較してその増産額を求める方法により所得を算出することが許される旨主張するのであるが、しかし本件においては、前掲入金・出金・振替伝票一六綴(符五三号、符五四号)、四四年分、四五年分事業所得収支明細書二袋(符六三号、符六四号)、被告人の当公判廷における供述等によれば、本件申告の際、福利厚生費、通信費、交際費、図書印刷費等を水増し計上しているほか、伝票の一部が改ざんされ、あるいは経費帳の記載についても、計上もれの分を申告時に一括概算で記載していること等の事実が認められるのであって、これら経費科目の正しい明細書、伝票等がなければ正当な経費の金額を算出し得ないことは当然であり、このような状況の下では多岐にわたる経費科目を実額によって確定することは極めて困難であって、本件の場合損益計算法によって所得金額を正確に計算し得ない事情の存在を明らかに認めることができるのみならず、却って関係証拠に照らすと、本件修正貸借対照表の各資産、負債項目に記載の各金額はいずれもそのとおりであることが認められる。したがって、本件逋脱所得税額の算定方法に関する弁護人の前記主張は採用できない。

二  外国手数料未払金について

弁護人は、検察官が主張する外国手数料未払金の額は、実際に支払っている手数料の額に比し過少である旨主張するのでこの点につき検討すると、前記(証拠の標目)中の〔外国手数料未払金〕欄掲記の各証拠によれば、被告人は、外国手数料の計上について実際の送金額のほか未払手数料を計上しているが、右未払金については本来翌年においていわゆる洗い替えをなすべきところ、被告人は右の洗い替えをしていないため前年末の未払金が全額二重計上となっていることが認められる。

そして、前掲各証拠によれば、本件各年分の外国手数料未払金の額は

(一)  昭和四四年分

(1) 年内に請求書の到着した出願時手数料 六、七二〇、七四二円

(2) 翌年申告時までに請求書の到着した手数料 一、九五八、八六五円

(3) 翌年申告後に請求書の到着した売上に対応する請求の不明な手数料 六、八〇〇、〇〇〇円

(4) 追加手数料 五、二一三、五九三円

合計 二〇、六九三、二〇〇円

(二)  昭和四五年分

(1) 年内に請求書の到着した出願時手数料 一二、四六二、八二二円

(2) 翌年申告時までに請求書の到着した手数料 一、三五九、八一五円

(3) 翌年申告後に請求書の到着した売上に対応する請求の不明な手数料 五、〇八五、〇〇〇円

(4) 追加手数料 七、一六一、九二二円

合計 二六、〇六九、五五九円

であることが認められる。

弁護人は、本件外国手数料については、出願時外国代理人に支払う手数料のほか、国内の発注者に対して請求できない書類の形式的補正等の費用が支払われているのが通常であり、これら現実に支払われている外国手数料の金額に比し査察官が把握した金額は余りに過少であると主張するが、記録を検討しても、前記認定に反する具体的な証拠は見当らないから、弁護人の主張は採用できない。

(なお、前掲証人前田昌男〔第二七回、第二八回公判〕及び被告人〔第二八回公判〕の当公判廷における各供述並びに特許基本台帳一冊〔符七五号〕等によれば、「OP一〇四七―六タンデム圧延機における厚板自動予測制御法」に関する特許申請の件については、売上に対応する経費と考えられる昭和四四年一一月二一日の二〇〇・八五ルーブル及び同年一二月一六日の二一・二〇ループルの各請求分のほか、その後右特許出願に関し昭和四五年三月三〇日の四一・四〇ルーブル、同年一〇月一二日の四二・〇〇ルーブル及び同年一二月二五日の一二五・四〇ルーブルがそれぞれ請求されている事実を窺うことができるけれども、右昭和四五年度の三回分については、請求の内容が補充説明書あるいは追加クレーム作成等の費用であることが認められ、このような臨時的な経費については、所得税法上は償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものは必要経費からは除外されることとされているから〔所得税法三七条一項かっこ書〕、したがって、右三回分の費用は本来昭和四四年分ではなく、昭和四五年分の未払外国手数料(4)の追加手数料に算入すべき筋合のものである)。

三  パートナー配分について

検察官は、昭和四四年分及び昭和四五年分のパートナー配分につき、いずれも配分の事実はなく、右申告は所得の配分を仮装し累進課税を免れることを企図したものであると主張し、これに対し弁護人は、本件パートナー配分は正当に履行されたものであるから税額計算上当然必要経費として所得から控除されるべきであり、仮にその方法に誤りがあったとしても、被告人としては税務職員の指導を受け、その指示に従って本件パートナー配分を実施したものであって、逋脱の犯意を欠くから右配分金は犯則所得の計算上これを除外すべきであると主張する。

よって、この点につき検討すると、押収してある事業所得収支明細書二袋(符六三号、六四号)、確定申告書五袋(符六五号ないし符六九号)、四五年分所得税青色申告決算書一袋(符七〇号)によれば、昭和四四年分につき大井(旧性手島)幸子(非弁理士)及び高月猛(弁理士)の両名に対し、パートナー配分としてそれぞれ一四、九九二、一一四円を配分し、昭和四五年分につき右両名に対しそれぞれ二五、〇〇〇、〇〇〇円及び武田賢市(弁護士)に対し二〇、〇〇〇、〇〇〇円を配分した旨申告している事実が明らかであるが、関係各証拠によれば、右申告にかかるパートナー配分金が現実に配分された事実は認められない。

すなわち、第五回公判調書中証人大井幸子(旧姓手島)の供述部分、当裁判所の証人高月猛に対する尋問調書、第七回公判調書中証人高月猛の供述部分、武田賢市の検察官に対する供述調書、押収してある覚書等一袋(符二五号)中の覚書二枚、普通預金通帳九冊(符二三号、符二四号)、定期預金元帳写等一袋(符二六号)によれば、右三名はいずれも被告人に雇用され、給料、賞与等を支給されて従業員として勤務していたこと、パートナー配分については事前に具体的な話合いもなく、被告人が一方的に決定し、配分金額も便宜的なものに過ぎず、また、配分金についての確定申告やこれに対する所得税、地方税の納付等は一切被告人の方で行う等前記三名は単に形式的な名義人の色彩が強いこと、さらに、右配分金は三名に対し現実に支払われず、昭和四六年に至って右三名の名義で銀行預金されたものの、預金通帳、印章は被告人が保管しており、右三名がこれを自由に処分できるような状態にはなかったこと及びその後右三名が退職した後も配分金は支払われていないこと等の諸事実が認められ、これらの状況に照らすと、申告にかかる本件パートナー配分金が右大井、高月及び武田の三名に帰属し、現実にパートナー配分が実施されたものとは到底認めることができない。

そして、被告人の当公判廷における供述(第二八回公判)及び第七回、第八回公判調書中証人武田賢市の各供述部分のうち右認定に反する部分は、前掲各証拠並びに被告人に対する収税官吏作成の質問てん末書(乙〈4〉昭和四七年二月九日付、乙〈18〉同年一〇月一二日付)及び被告人の検察官に対する供述調書(乙〈26〉昭和四八年二月二四日付)の各供述記載と対比し採用し得ない。

したがって、本件パートナー配分の事実が認められない以上、被告人の右パートナー配分に関する申告は、自己に対する累進課税を免れるために右配分を仮装したものといわざるを得ないから、弁護人の右主張は採用できない。

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条に該当するところ、所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑を併科することとし、以上の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で処断すべきところ情状についてみると、本件逋脱所得及び税額の規模、逋脱所得率並びに逋脱の手段、態様等に照らし被告人の刑責は重いといわねばならないが、他方、被告人はその後昭和四五年分までの追徴税額を全額納付していること及び本件犯行を深く反省していること等量刑上斟酌すべき事情も存在するので、これら被告人に有利及び不利な事情その他一切の諸事情を総合考慮のうえ被告人を懲役一年六月及び罰金四、〇〇〇万円に処し、同法一八条を適用して右罰金を完納することができないときは金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して全部これを被告人に負担させることとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大澤博 裁判官上田幹夫、同高橋祥子はいずれも転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官 大澤博)

別紙(一) 修正貸借対照表

佐藤正年

昭和44年12月31日

〈省略〉

〈省略〉

別紙(二) 修正貸借対照表

佐藤正年

昭和45年12月31日

〈省略〉

〈省略〉

別紙(三) 税額計算書

(1) 昭和44年分

〈省略〉

税額計算書

(2) 昭和45年分

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例